相続税 財産評価 ケーススタディ

倍率地域の雑種地の評価
想定通路の向きと高低差の減価

道路に直接接していない雑種地について、不整形地補正のための想定通路をどちらの道に向けるか。あわせて、道との段差を理由に造成費を控除できるかを整理します。

2026年8月 作成 / 一般的な論点整理であり、個別案件への適用は事実関係の確認を前提とします

結論の要約

  1. 想定通路は、接道義務を満たせる道に向ける。「距離が近いから」「そちらの方がかげ地割合が大きくなるから」は理由にならない。建築基準法上の道路でない道は、そもそも通路の向け先として観念できない。
  2. その前に評価単位を確定させる。介在地と評価対象地が一団として評価できるなら、想定通路の問題自体が生じない。
  3. 介在地が被相続人所有なら、想定通路は描くが無道路地補正はしない。国税庁質疑応答事例に明文があり、裁決も同旨。介在地をかげ地とする不整形地として評価する。
  4. 道との段差を理由とする造成費の控除は、前提から検討する。造成費が測るのは「比準元である近傍宅地の水準に合わせる費用」であって「隣接する道との段差」ではない。

1 想定する状況

倍率地域にある不整形な雑種地について、次のような位置関係を想定します。この形は、農地・山林が宅地化していく過程の地域でしばしば見られます。

道 A 建築基準法上 の道路 介在地 (被相続人所有) 想定通路 接道義務を満たす最小幅員 評価対象地(雑種地) 不整形・道に直接接していない 介在地とは段差なし 道 B(農道・種別の確認が必要) 段差あり 評価対象地は道Aに直接接せず、被相続人所有の介在地を経由して到達する。 道Bには近いが、段差があり、建築基準法上の道路かどうかが未確認。

図は位置関係を示す概念図です。実際の判断は、道の種別・地目・利用状況・地盤高の実測によります。

2 検討の順序

この論点は、いきなり「どちらの道に通路を向けるか」から入ると迷います。次の順序で降りていくと、判断の分岐がはっきりします。

1

評価単位を確定する

介在地と評価対象地が一団として評価できるか。できるなら、その一団の土地は道Aに接するので、想定通路の問題そのものが消えます。

2

それぞれの道の建築基準法上の種別を確認する

特定行政庁への照会事項です。ここで結論が決まります。「農道だから道路ではない」と決めつけることはできません。

3

想定通路の向きを決め、無道路地補正の要否を判断する

介在地が同一人所有であれば、想定通路は描きつつ無道路地としての控除は行わない、という処理になります。

4

造成費・高低差の減価を検討する

比準元となる近傍宅地の地盤高と比べてどうか、という視点で判断します。隣接する道との段差だけを見ると誤ります。

3 まず評価単位を確定させる

「実際に宅地として使うなら介在地と一体で考えるのが自然だ」という感覚には、通達上の裏づけがあります。ただし、使えるルートは限られています。

ルート要件倍率地域で使えるか
評基通7-2(7)本文 いずれも雑種地で、同一の目的に供されている(またはいずれの用にも供されていない)こと 使える
評基通7ただし書 2以上の地目からなる一団の土地が、現に一体として利用されていること。主たる地目により一団で評価する 使える
評基通7なお書き 市街地農地・市街地山林・市街地原野・宅地類似雑種地のいずれか2以上が隣接し、一団として評価することが合理的と認められること 難しい(後述)
注意

「一体で使うのが合理的だから一団で評価する」という理由づけは、評基通7なお書きのロジックです。同なお書きには「市街化調整区域以外の都市計画区域で市街地的形態を形成する地域において」という地域要件が付されており、倍率地域では文理上の適用が困難です。使えるのは上の2ルートで、要件は「合理性」ではなく「現に同一目的に供されているか」「現に一体利用されているか」という事実です。

もう一点、評価単位は事実認定の問題であり、有利な方を選べる論点ではありません。遺産分割で介在地と評価対象地が別々の相続人に帰属する場合には前提が変わりますので、取得者の確認もあわせて必要になります。

4 想定通路をどちらの道に向けるか

接道義務が入口要件、通路開設費用はタイブレーカー

「実際に利用している一番近い道に向けて想定通路を作る」という理解は、正確には少しずれています。財産評価基本通達20-3は、控除する金額を次のように定めています。

無道路地について建築基準法その他の法令において規定されている建築物を建築するために必要な道路に接すべき最小限の間口距離の要件(以下「接道義務」という。)に基づき最小限度の通路を開設する場合のその通路に相当する部分の価額 財産評価基本通達20-3(無道路地の評価)

通路は接道義務を満たすためのものです。したがって、接道義務を満たせない道は、そもそも通路の向け先として観念できません。

利用路線が複数ある場合の選び方については、裁決が基準を示しています。

評価通達20−2は、無道路地の価額は実際に利用している路線(以下「利用路線」という。)の路線価に基づき評価し、通路開設費用は接道義務に基づき最小限度の通路を開設する場合のその通路に相当する部分の価額とする旨定めているから、利用路線が二つある場合は、開設する通路に相当する部分の価額の少ない方の路線が利用路線であると解される。 平成18年5月8日裁決(裁決事例集No.71・533頁)※条番号は当時のもの。現行は20-3

ここで読み違えやすいのは、「安い方」が独立した基準ではないという点です。裁決の文章自体が「接道義務に基づき最小限度の通路を開設する場合の価額とする旨定めているから」を前提に「少ない方」を導いています。つまり接道義務を満たせることが入口要件で、費用の多寡は候補が複数あるときの決着方法という階層関係です。同裁決の事案も、比較の対象はいずれも路線価が付された正規の道路でした。

整理

距離が近いという理由だけで、建築基準法上の道路でない道を選ぶことはできません。逆に、両方が建築基準法上の道路であれば、通路開設費用の少ない方を選ぶことになります。

介在地が同一人所有の場合の処理

介在地が被相続人(または同一の相続人)の所有である場合の処理には、国税庁の明文の取扱いがあります。

通路部分が明確に区分されていない場合には、原則として、接道義務を満たす最小の幅員の通路が設置されている土地(不整形地)として評価しますが、この場合には、当該通路部分の面積はA土地には算入しません。また、無道路地としての補正は行わないことに留意してください。 国税庁 質疑応答事例「宅地の評価単位-自用地と自用地以外の宅地が連接している場合」

すなわち、想定通路を描いて不整形地として評価しつつ、無道路地としての40パーセント控除は行わないという処理が予定されています。「想定通路は作るが無道路地評価はしない」という実務は、この事例が根拠になります。

裁決でも同旨の判断が積み重なっています。

接道義務を満たさないことからくる相当の利用の制限が認められない場合には、評価上しんしゃくする必要がないというべきであり、例えば、道路に接するまでの土地が自己所有である場合には、新たに道路を開設するための取得費用の負担がなく、いつでも道路を開設することが可能であるから、財産評価基本通達に定める無道路地に該当しないと解される。 平成21年3月2日裁決

具体的な計算方法まで示した裁決もあります。同一人が取得した介在地がある土地について、原処分庁の「無道路地に準じた評価」という主張に対し、審判所は次のように述べました。

通路開設部分に係るしんしゃくを行っておらず、実質的には評価基本通達20に基づき、本件A土地が本件A土地北側土地をかげ地とする不整形地であるとして評価しているものと認められ、結論としては不合理とはいえない 平成19年11月5日裁決(裁決事例集No.74・357頁)

なお、評価単位が分かれた場合でも、この処理は変わりません。「評価単位が異なることと両土地に一体利用可能性が認められることとは別次元の問題である」(平成27年5月26日裁決)とされており、評価単位が別でも、自己所有地を経由して進入できるのであれば無道路地としての補正は行わない、という整理になります。

道の種別は必ず照会する

実務上の必須作業

農道であっても、建築基準法42条1項3号(この章の規定が適用されるに至った際現に存在する幅員4メートル以上の道)や同条2項の指定を受けている例があります。「農道だから道路ではない」と決めつけることはできません。特定行政庁(建築指導課)に道路種別・幅員・管理者を照会し、回答を書面で残してください。

さらに、建築基準法上の道路でなくても減価が否定された最近の裁決があります。「建築基準法第43条第2項第2号の許可を受けることができる蓋然性が高く、接道義務を満たさないことによる相当の利用制限が認められない場合に該当するため、無道路地としての減額補正をしなくても評価通達20−3の趣旨に反せず、無道路地の評価を適用するものに該当しない」(令和7年12月1日裁決)。減価を主張する側は、許可が下りない見込みであることまで示す必要が生じ得ます。

5 「かげ地割合が大きくなる方を選ぶ」という発想の落とし穴

想定通路を長く引けば想定整形地が大きくなり、かげ地割合が増え、不整形地補正率が下がる。だから評価額の下がる方を選びたい。この発想は自然ですが、理由づけをここに置くと反論を受けやすくなります。

想定整形地の取り方に自由度はない

その想定方法自体が不合理なものでない限り、その想定されたもののうち、最も小さい面積のものを想定整形地として上記評価を行うのが合理的である 平成24年10月10日裁決(裁決事例集No.89)

同裁決は他方で、面積が小さいだけでは足りないことも述べています。「正面路線に面したく形ではないことから、評価基本通達20に定める想定整形地そのものには当たらない」。つまり順序は、まず「正面路線に面するく形」であることが要件で、その候補が複数ある場合に最小面積のものを採る、となります。想定通路を長く引いて想定整形地を意図的に膨らませる余地は、この枠組みの中にはありません。

かげ地割合が過大になる場合の歯止め

このように、帯状部分を有する土地について、形式的に不整形地補正を行うとかげ地割合が過大となり、帯状部分以外の部分を単独で評価した価額より低い不合理な評価額となるため、不整形地としての評価は行いません。 国税庁 質疑応答事例「不整形地の評価――不整形地としての評価を行わない場合」

判定は「かげ地割合が大きいかどうか」という感覚ではなく、帯状部分以外を単独評価した額を下回るかという具体的な比較です。長い想定通路を描く場合には、この比較を自分で一度計算し、下回っていないことを確認しておくと安全です。

不整形地補正は形式適用ではない

画地の形状が完全な正方形又はく形でないとしても、その画地の地積がおおむね適正規模若しくはそれ以上であり、かつ、不整形の程度が比較的小さい場合など、宅地としての利用に当たり特に支障がないものについては、不整形地補正を要しないものと解するのが相当である。 平成8年6月13日裁決(裁決事例集No.51・575頁)

この裁決は雑種地(青空駐車場)の事案で、認定されたかげ地割合は11.97パーセントでした。なお同裁決が示した15パーセント基準は中小工場地区における当時の運用ですので、他の地区区分にそのまま持ち込むことはできません。

結論

道Aを選ぶ理由は「接道義務を満たせる道がAしかないから」であって、「Aの方がかげ地割合が大きくなるから」ではありません。結果としてAの方が評価額が下がるならそれで構いませんが、理由の順序を逆にすると否認の材料になります

6 道との段差を理由に造成費を控除できるか

まず費目の定義を確認する

財産評価基準書「宅地造成費の金額表」の留意事項は、土盛費・土止費を次のように定義しています。

(4)「土盛費」とは、道路よりも低い位置にある土地について、宅地として利用できる高さ(原則として道路面)まで搬入した土砂で埋め立て、地上げする場合の工事費をいいます。
(5)「土止費」とは、道路よりも低い位置にある土地について、宅地として利用できる高さ(原則として道路面)まで地上げする場合に、土盛りした土砂の流出や崩壊を防止するために構築する擁壁工事費をいいます。 財産評価基準書「宅地造成費の金額表」留意事項

いずれも「道路よりも低い位置にある土地」の費目です。したがって、まず評価対象地が道より高いのか低いのかを確定させる必要があります。「段差が2メートルある」という情報だけでは方向が決まりません。

より根本的な問題 — 何と比べた段差なのか

見落としやすい点

造成費が測っているのは、比準元である近傍宅地の水準に合わせるために必要な費用であって、隣接する道との段差ではありません。評価対象地が介在地(およびその先の宅地)と同じ地盤高に揃っているなら、そもそも土盛りを要するという前提が成立しません。また、想定通路を道Aに向けると決めながら高低差は道Bで測る、という組み合わせは一貫性を欠くとの指摘を受けやすくなります。

控除しすぎの判定基準は「マイナスになるか」ではない

段差の全量に単価を掛けると、評価額を容易に食い潰します。「マイナスになるのはやりすぎではないか」という感覚は正しいのですが、判定の閾値はもっと手前にあります。

「その市街地山林について宅地への転用が見込めないと認められる場合」とは、その山林を本項本文によって評価した場合の価額が近隣の純山林の価額に比準して評価した価額を下回る場合、又はその山林が急傾斜地等であるために宅地造成ができないと認められる場合をいう。 財産評価基本通達49(市街地山林の評価)注2

プラスであっても純山林(純農地)比準額を下回れば該当する、という構造です。ただしこの通達49なお書きは市街地山林についての定めであり、雑種地を直接の対象としていません。雑種地について引くべき根拠は次の2つです。

検討できる余地 — 土止費と、利用価値の著しい低下

道より高い土地について土止費の計上を認めた裁決があります。市街化調整区域内の雑種地で、宅地の評価倍率1.1、市道に1.5から2.0メートル程度高く接面する三角形状の不整形地という事案でした。

宅地として利用するためには新たな土止工事が必要である。したがって、宅地造成費として土止費の計上を認めるのが相当である。

この高低地補正は、単に路線との高低差によるものであり、その差があれば一律に認められる補正であって、土止めの必要性の有無など、造成の必要性に対する補正とは認められない。 平成19年11月5日裁決(裁決事例集No.74・357頁)

後段は、固定資産税評価上の高低地補正があっても造成費控除は妨げられない、という判断です。もっとも、前記の金額表の定義(道路よりも低い位置にある土地について)と正面から衝突する論点であり、確立した処理とはいえません。計上するなら、擁壁が存在しないこと、宅地利用のために土止工事が実際に必要であることを現地写真や見積で立証し、擁壁の延長と高さを実測して計算する必要があります。

もう一つの選択肢が、タックスアンサーNo.4617「利用価値が著しく低下している宅地の評価」です。対象は「道路より高い位置にある宅地または低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの」で、高い場合も含まれます。ただし要件は緩くありません。

論点内容
「著しく」の判定 「評価する宅地とその所在地の周辺の一連の宅地の高低差を比較検討してもなお著しい高低差のある場合に限って、本件取扱いを適用するのが相当である」(平成29年4月7日裁決)。周辺一帯が同様の地勢なら適用されない
10パーセントの対象 土地全体ではなく「利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額
ただし書 「路線価、固定資産税評価額または評価倍率が、利用価値の著しく低下している状況を考慮して付されている場合にはしんしゃくしません」。比準元の価額に高低差が織り込まれていないかの確認が前提
通達上の位置づけ 財産評価基本通達には条項がなく、タックスアンサーにのみ存在する課税実務上の取扱い。対象として名指しされているのは宅地と、宅地比準方式で評価する農地・山林

7 金額への影響が最も大きい論点 — 計算の出発点

最重要

雑種地の固定資産税評価額に「宅地の」評価倍率を乗じる処理には根拠がありません。財産評価基本通達82ただし書の倍率は、雑種地について定められた倍率です。評価倍率表に雑種地の倍率が定められていない場合(通常はこちらです)、この方法は採れません。

同通達の定めによる評価方法に代えて、当該土地の固定資産税評価額に1.1(固定資産税評価額と相続税評価額の水準差)を乗じて評価することは相当でない 令和2年3月17日裁決

正しい出発点は、近傍宅地の1平方メートルあたりの固定資産税評価額(固定資産税路線価)に宅地の評価倍率を乗じた価額です。そこに画地調整を行い、必要に応じて造成費を控除します。ただし、市町村の評価方式によっては出発点が変わり得ます。

X市が呈示する評価対象地に係る「近傍宅地 当り」の価額は……固定資産税の路線価に時点修正率を乗じただけのものであり、評価対象地の付近の宅地について、画地調整を行った後の1平方メートル当たりの価額を示すものではない

X市のように評価対象地が宅地であるとした場合の固定資産税評価額そのものが算定可能である場合には、あえて付近の宅地の価額を基に算定するまでもなく、その固定資産税評価額を基に評価するのが相当である。 平成19年11月5日裁決(裁決事例集No.74・357頁)

そこで、市町村への照会では次の3点まで確認しておくと安全です。

対象地自身の固定資産税評価額の使い道

評価対象地の固定資産税評価額が、近傍宅地の固定資産税路線価に比べて著しく低いことがあります。市町村側で地目差・接道・形状・高低差などの減価をすでに織り込んでいるためです。

ただし、この数字を相続税評価の減額根拠に使うのは筋が通りません。出発点に使わない数字に含まれる減価は、二重計上になりようがないためです。有用なのは健全性チェックとしての使い方です。固定資産税評価額は公示価格のおおむね7割、相続税評価額は8割が目安ですので、正しく評価すれば相続税評価額は固定資産税評価額を上回るのが通常です。補正を積み上げた結果が固定資産税評価額を下回るようなら、どこかで引きすぎているサインと考えるのが安全です。

8 着手前に確認したい事項

二重減価に関する留意点

無道路地としての減価と、市街化調整区域であることによるしんしゃく割合を重ねて適用することは、建築制限による減価を二重に行うことになり不相当とされた例があります(平成19年6月22日裁決)。他方で、無道路地であることは「市街化調整区域に存する雑種地であることに基因する法的制限ではない」ため、しんしゃく割合の判断自体を左右しないとされています(平成28年10月4日裁決)。両者は別次元の調整であり、混同しないよう整理が必要です。

9 引用した根拠

財産評価基本通達

国税庁 質疑応答事例

国税庁 タックスアンサー

財産評価基準書

国税不服審判所 裁決

建築基準法